スープがしょっぱかったと言うべきか言わざるべきか。
無性にお出かけしたかった。
何かしてえ
— 上田太郎 (@terotero10_3) August 13, 2020
暑すぎてどこにも行きたくないのはわかるんだけど
とにかく何かしてえ
朝からこんな気持ちだった。
ふと思いついたので、地元のシャッター街化してしまった商店街を散策してきた。
「西門」という。
僕がまだ幼稚園に通っていた時だったから、29~30年前くらいか。
当時はまだ商店街に活気があり、とても人で賑わっていた記憶がある。
岡本太郎さんが制作したオブジェクトをはじめ、当時は子どもたちが楽しめるような水遊び場もあり、なんか屋台的なのが出てたような気もする。
魚屋さんの威勢のいい掛け声、生魚のニオイ。
八百屋さんの野菜のニオイ。
ほんの一部の記憶だが、今でも鮮明に思い出せる。
時代の流れとともにいつしか母は商店街で買い物をしなくなり、
気付いた時にはいつの間にかシャッター街になっていた。
特別アクセスの良い場所にあったわけではなかったのに、何故あそこまで栄えていたのか今でも少し疑問だ。
とにかくそんなノスタルジーを味わいたくて、暑さのピークを避けた15時頃赴いてみた。
今でも数店営業している店はあるみたいなのだが、お盆期間中という事もあり本当にシャッターが閉まっているテナントばかりだった。
スケボーを転がしたりプラプラ歩いたりしてみたのだが、思いの外すぐに見終えてしまった。
期待していたノスタルジーなんかはなく、とにかくシャッターが閉まるのみだった。
そしていくら昼下がりとはいえ、暑い。
とにかく暑い。どこかで涼みたい。
そんな中営業しているらしい喫茶店に涼みに入った。
昼食をとっていなかったので、小腹も空いていた。
遅めのランチ。
狙ってんのかそうでないのかはわからないが、いわゆる純喫茶といった雰囲気のお店だった。
豊島区の東長崎に住んでいた時、こんな感じのレトロな喫茶店があった事を思い出してちょっと心が揺らいだ。
東長崎で線路に飛び込もうかと思った話はこちらから。
日替わりランチはアラビアータ。
コーヒー、サラダ、スープがついて550円という安さだった。
名札に「職業訓練中」と書かれた高校生くらいの女の子がオーダーを取りに来てくれた。
彼女はカウンターにいる店主らしき人物と人間関係の難しさについて語り合っていた。
パスタはしっかりアルデンテでソースもしっかり旨味があり、コスパが素晴らしいと思った。
白Tシャツが汚れないように細心の注意を払いながら食べた。
しょっぱすぎたコンソメスープ。
途中、スープに口をつけた。
口に入れた瞬間、塩辛くてびっくりした。
しょっぱいもの好きな僕でも完飲するのがギリ厳しいくらいのしょっぱさだ。
貧乏性でもったいない精神旺盛の僕はよっぽどのことがない限り食べ物を残したりはしないのだが、流石に残してしまった。
スープ以外を完食し、アイスコーヒーを飲みながらめちゃめちゃ悩んだ。
「スープがしょっぱかったことを言うべきか、言わざるべきか。」
店主らしき男性は女の子に対し、人間関係について一生懸命アドバイスをしている。
その話しぶりから、人柄はきっと良いと思う。
店内を見渡してみても、「西門を盛り上げよう!」なんていう企画のポスターも見受けられたし、地元小学生が考えたメニューなんかもあった。
地域のコミュニティーとしても機能したい、なんていう文言がホームページにもあった。
営業利益だけでなく、ここはそんな志のある人が営んでいる素敵な喫茶店。
そんな素敵な喫茶店のランチセットについているスープが、しょっぱい。
言わないで美味しかったですと去るのが優しさなのか、それともしょっぱかったと言うのが優しさなのか。
僕好みの酸味の抑えられたちょっとスパイシーなアイスコーヒーを啜りながら考え込んでいると、常連らしき母娘の親子が来店し店主と談笑しながら奥の個室へ入っていった。
間もなくハッピーバースデーの大合唱が店内にこだました。
コーヒーをチビチビ飲みながらノートを広げてブログ記事を考えようと思っていたが、
なんか居づらくなってしまったのでさっさと出ようと思い会計に向かった。
考えがまとまっていないままレジに向かってしまった。
レジ操作のおぼつかない女の子の横で、店主が姿勢良く前で手を組み見守るようにしている中、僕に話しかけてきた。
店主「騒がしくてすみません。あの娘、二十歳の誕生日なんです。」
僕「ああ、そうでしたか。特別な日ですよね…。あの、パスタ、凄く美味しかったです。
…ただほんとすみません、スープなかなかしょっぱかったです。後で確認してみてください。」
言ってしまった。やっぱり言わないより言ったほうが店側としては良いと思うのだ。
店主「えっ!!?そうでしたか!!?申し訳ございません!!」
慌てふためくように謝られた。
そんな悪質クレーマーな感じで言ったわけじゃないんだけどな…。
僕「いやいや全然そんなんじゃなくて、あの、パスタめっちゃ美味しかったです。」
女の子からお釣りを受け取り、店を出ようとすると店主がわざわざカウンターから出てきて見送りをしてきた。
店主「本当にすみませんでした、是非また来てくださいね!」
あー…言わなきゃよかったし出るタイミングも間違えた。
これじゃ常連のうるさい声にイラついて居心地が悪かった上にスープもしょっぱくて最悪だと思ってる客だと店主に思われてるだろう。
しかも「研修中」の札ではなく「職業訓練中」と書かれた札をぶら下げている女の子の前でそんな対応をしてしまった。
もしかしたらまだ中学生で社会勉強的な感じでお店に立っていたのではないだろうか。
彼女は店主にガッカリしなかっただろうか。僕は店主のメンツを潰してしまったのではないだろうか。
店主は何を思っただろうか。
新規の客なのに居心地が悪くてすぐ出ていってしまったと思われたのではないか。
いやまあ実際ちょっと居づらかったのは事実なんだけど。
一見の客がいつまでも居座っていたら常連客が楽しくないだろうなと変に気を遣って出ようとした。
なんか変にモヤモヤしてるけど、これ文字起こしして気がついた。これ結局
自分が嫌な客だと店員に思われた事にガッカリしている
だけだ。
お行儀のいい客だと思われたい。
飲食店で働いていた者として、自分が飲食店に入った時それはそれはお行儀の良い客でいようと心掛けてきた。
店員に嫌な思いをさせたくない。自分がされて嫌だった事は他の人に味わわせたくない。
なのに最後の店主の見送り方は、あれは完全に「僕がお店に対してガッカリしている」と思っている対応の仕方だ。
そんなつもりじゃなかった。ただしょっぱかったことを伝えたかっただけだ。
別に誠意見せろとかどないしてくれんねんとかそんなんじゃなかった。
自分が良い客だったと思われたかっただけだ。
結局また自分可愛さな考えに嫌になった。
夕立が降りしきる中、急いでコインパーキングの精算を済ませコンビニに立ち寄った。
口の中の塩辛い感覚を中和するため、迷わずティーラテを買った。
すぐに夕立が上がり、きれいな虹を眺めながら飲む甘いティーラテは、それはそれは美味しかった。
決めた。またあのお店に行ってみよう。
初めてお越しいただいた方、ここまでお読みくださり、またご視聴いただきありがとうございます。
そして僕はこんな人間です。
是非この記事もお読みいただけたら嬉しいです。